ベルリンの蒼き森 −ナチス政権下に嫁いだ日本人アカリ“心の旅路”− (2010年2月新刊)     

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  木村 伸夫 著  四六判上製本 224頁  2010年2月1日初版発行 定価:1,575円(税込)
   ISBN978-4-434-14046-4 C0093 \1500E
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 第一次世界大戦で俘虜となったドイツ青年が、
 徳島板東で見初めた可憐な日本人女性を妻に、
 ナチス政権下となるドイツに連れて帰った。
 勢い時代は第二次世界大戦に突入し、
 またしても敗戦国となったドイツの悲劇を、
 歴史の流れの中で感動的に伝える一家の物語!


●日本図書館協会の「選定図書」に選ばれました(第2717回 平成22年2月17日)


 歴史から学ぶことは多い。
 とくに大きな戦禍の爪痕が後世の人々に教える問題は、
 いつもけっして古びることがない。
 日本においては、
 ヒロシマ・ナガサキの悲惨な事実に目をそむけたり、
 過去のかなたの出来事として風化させることができないように、
 ドイツにおいては、
 第一次世界大戦後に台頭したヒトラー率いるナチス党が敗戦の1945年まで君臨し、
 ホロコースト事件をはじめとする暗黒の世界が国を統治した。
 その重く痛ましい時代の記憶は、決して忘れることができないものである。
 本書は、まさにその当時の、
 痛ましいドイツに生きた人々の生活心情を浮き彫りにして、
 まだ語りつくされていないベルリンの家々で起こったであろう出来事の一端を小説化したものである。
 過去の出来事ではあるが、じつはこれは、
 いつでも起こり得る私たち現代人の心の闇に潜む問題でもある。
 歴史的事実が、フィクションとして語られるとき、
 私たちの感情に惹起する共感や共鳴は、
 この問題が、いまだ人類に未解決なままであることの証左である。
 再び同じ過ちを繰り返させないために、
 人はこのような歴史の事実を怜悧に見据えつつ、
 自らの心の闇と社会の闇に正面から向き合うことを忘れてはいけない。
 本書は、かつてあった信じがたい歴史的に重大な出来事を、
 小説の形を借りてまざまざと追体験させてくれる。
 著者が、先に著した、「第九交響曲ニッポン初演物語」につづく
 史実を背景に描いた感動の大作、舞台はベルリン。
単価 : \1,575 (消費税込み)  購入する/数量 :   注) 2010年1月下旬発売予定です。
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■目 次

序 章  望 郷 3

第一章  見知らぬ国、ドイツへ 29

第二章  ナチスの時代に生きる 79

第三章  蒼き森のなかで 145

       解 説 221
       主要参考資料 222


●著者プロフィール

 木村 伸夫(きむら のぶお)

大阪に生まれ京都に育つ。
大学卒業後、大学図書館及び博物館の仕事に従事。
京都市在住。 
著書に、『ひだまりの樹陰』(MBC21京都支局すばる出版)、
『第九交響曲ニッポン初演物語』(知玄舎)など。


●解説
 大学で「西洋史」を専攻し、ドイツに関心を寄せている著者は、ふとしたきっかけで、第一次大戦時の日本におけるドイツ兵俘虜収容所に思いを抱くようになった。やがて音楽への関心とがあわさって、世界史的に見て稀有なドイツ人俘虜と徳島住民のほのぼのとした交流を描いた『第九交響曲ニッポン初演物語』を上梓(知玄舎)したのは、二〇〇九年八月であった。
 この書で著者は、徳島住民の中田明里という音楽教員(架空)を登場させ、彼女の視点から、史実に基づき所長、松江豊寿によってもたらされた徳島と板東の俘虜収容所での豊かな生活実態と地元住民との交流を小説として明らかにした。その象徴的な事実は、何とドイツ人俘虜によって西洋音楽の最高峰ベートーベンの「第九交響曲」が本格的に演奏されたことである。第一次世界大戦の最中、一九一八年六月一日のことだった。今からほぼ九十年も昔のことであること、大戦の最中であること、俘虜が収容所で成し遂げたことであること、さらにはこれが本格的な「第九」の日本初演として記録されたことであるということ、そしてそれを当時の徳島・板東の住民が、喜びと感動をもって受け入れたことは、小説として確かな感動を伴い、読者を深い感慨へと導く。
 しかし、著者の意図するものには、さらに続きがあった。
 この著作に登場するドイツ人俘虜グスタフと徳島住民の中田明里(アカリ)の関係は、終戦を迎え俘虜が本国に戻るときに、結婚に発展して物語の舞台は一転してドイツに変わる。ここからが、本書『ベルリンの蒼き森』の展開である。つまり本書は、『第九交響曲ニッポン初演物語』の続編として著されたフィクションである。
 続編ではあるが、著者はそれにこだわってはいない。本書は、ベルリンの蒼き森に象徴される第一次世界大戦から第二次世界大戦、そして大戦後の冷戦時代におけるベルリンの壁が形成されるまでのドイツの現状を、史実に基づき、遠き東洋の日本からはるばる嫁いだ「アカリ」という日本人女性の生活の視点を通じて、克明にリアルに伝えるものである。
 時は一九三三年、政権を掌握したヒトラー率いるナチス党が世界史的に著しい衝撃をもたらし、一九四五年の敗戦まで続いた恐怖と暗黒の時代である。当時、ドイツで起こった信じがたいホロコースト事件は未だ人類の記憶に新しいが、本書では、当時のドイツ国民がどのような生活感情で過ごしたかを、小説としてことこまかに知ることができる。主人公のアカリとグスタフは二男一女のこどもたちに恵まれはしたが、戦争に駆り出された二人の息子のたどる人生と運命には、過酷なナチス政権がもたらした戦時下に生まれた人間としての、奥深い苦悩が描かれている。
 本書は、そんな悲惨で激動の時代を生き延びたアカリとその家族が、束の間の平和をとりもどした、万博で湧く日本に里帰りしたところから始まり、ベルリンの壁の建造が始まったところで幕を閉じる。怜悧に語る著者の表現は、フィクションでありながらも、史実の背後に蠢いた戦時下における人間心情を浮き彫りにして現代人に訴えかける。
 過去の史実にもとづく小説ではあるが、本書が共感を呼ぶのは、大戦や冷戦の時代感情が、じつは私たち一個人の精神的な領域にもあり、ヒトラーの台頭やベルリンの壁による分離・分割が象徴や比喩として、私たち人間個人が解決すべき心理的テーマであることを喚起して止まないからではないだろうか。(素波英彦)


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