●遥かなるオーガスタ −若き獅子たちの旅立ち−
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金住 年紀 著 四六判480頁 2007年12月23日初版 定価1,890円(税込)
ISBN978-4-434-11221-8 C0093 \1800E
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【推薦 プロゴルファー 牧野 裕】
この小説はゴルフといぅ題材を通して人としてどうあるべきかという人間力を考えさせられるものでした。
…略…、ゴルフをされない方、プロゴルファーや人を指導する立場の方にもぜひ読んで欲しいと思います。
タイガー・ウッズを超え、その先のプロ・ゴルフの頂点を目指す、遙かなる旅路をひた走る若獅子達。
父と師と子と母、家族愛と出生の秘密、友情と愛と闘いの人生の機微を描いたゴルフ道小説。
ISBN978-4-434-11221-8 C0093 \1800E |
【本書の紹介】 金住年紀が、タイガー・ウッズを超え、 その先のプロ・ゴルフの頂点を目指す、 遙かなる旅路をひた走る若獅子達の人生を、 渾身を込めて描いた異色のゴルフ道小説。 1997年暮れに上梓されるや、 プロゴルファーをも唸らせるすぐれた表現描写や、 父と師、子と母、家族愛と出生の秘密、友情と愛と闘いの 人生の機微がめくるめく展開するストーリーのおもしろさに、 読む者を思わず釘付けにする。 弁護士を正業とし、 なおかつハンディ1の実力をもつアマゴルファーである著者が、 だれもが舌を巻く圧倒的な表現力をもって、 ついに作家としての相貌を如実に証明した傑作である。 480頁を一気に読ませてしまう魅力あふれる小説の醍醐味をご堪能あれ。 プロゴルファー牧野裕氏推薦。 ★2009年11月、 著者、金住年紀のフィクション第2弾が知玄舎から出版 『モルダウの黄昏・HoLEP―前立腺肥大と向き合った男の物語―』 約480万人の中高年男性が患っているといわれる 前立腺肥大症を救う福音−HoLEPという手術法の体験小説です。 |
●著者略歴
金住 年紀 (かなずみ としのり)
本名、則行(のりゆき)
1939年12月23日愛知県生まれ。
中央大学法学部卒、昭39司法試験合格。昭42第一東京弁護士会弁護士登録。
東京都千代田区グリーン法律事務所所長(Fax:03-3263-3882)。
趣味…囲碁(日本棋院六段)、ゴルフ(最高ハンディ1、ゴルフ自然人クラブ会長)、水墨画、和太鼓。
著書…『ファンタジックゴルフ』(共著:コボリ出版)。
使命…困った人を助けること。才能のある人をサポートすること。愛のきずなを世界中に広げること。
プロローグ
アーメンコーナー
−やっぱり今年もだめだった……−
血の気はすっかり引いているのに、汗がにじみ出てくる額を左の腕で乱暴にぬぐい、ぎっしり埋め尽くされたパトロンの待っている一八番グリーンに向かいながら山部大将は喉の奥でつぶやいた。
−なんて俺は馬鹿なんだ……どうして方針を変えたんだ……いったいいつになったらわかるんだ−
山部はありとあらゆる罵声を自分自身に浴びせながら一〇番のティーショットを思い浮かべていた。
−あの時、なぜもっとねばらなかったんだ−
ラブVと同スコアの八アンダーで一〇番ティーに立ったとき、九番でバーディーをとったラブVが、一〇番もまったく気負うことなく右から真ん中に軽いドローボールを打つのを見て、山部は突然今までの張り詰めた心が揺らいでしまうのを抑えることができなかった。
今年のマスターズを迎えるにあたって、山部は自分のゴルフの組み立てをフェードで攻めることに固く徹していた。昨年、日本のツアーで五勝して独走の賞金王になれたのもフェード一辺倒で貫いた成果だった。ドローで打つドライバーはまだまだ誰にもひけをとらなかったが、五〇歳代を迎えた今は安定したスコアに結びつけるために飛距離を少々犠牲にしても、フェードの球筋での安定したコントロールに自分ながらまた一皮むけた実感があった。
今年のマスターズの予選も、初日のグレッグ・ノーマンや二日目のタイガー・ウッズに、常にオーバードライブされながらも全体にはじっくりと力を溜めた余裕のあるゴルフができた。予選を三アンダー一二位タイでクオリファイし、三日目も三つ伸ばしてトップと三打差の六アンダーとして、九アンダーのデュバル、オメーラも射程圏内に捕らえたのだ。今までのアメリカのツアーではトップテンに入るのがやっとで、どうしても優勝に手が届かなかった山部が、メジャーの最高峰のマスターズで初優勝も可能な位置につけていた。
山部は最終日のフロントナインまで自分でも驚くほど冷静だった。二番のロングホールでイーグル逃しのバーディーを取り、続く三番でもバーディーを決めた。そして九番まで他の選手のことをまるで考えることもなく一打一打に集中してきたのに、九番でラブVがまさかのチップインバーディーで上がったとき、不意に悪魔が山部に囁いたのだ。
(以下、略)
《目次》
プロローグ 5
第一章 尊 敬 31
第二章 反 発 41
第三章 不 信 51
第四章 抵 抗 60
第五章 真 実 75
第六章 傷 心 87
第七章 葛 藤 96
第八章 対 面 107
第九章 和 解 120
第一〇章 愛 憎 129
第一一章 原 点 137
第一二章 因 縁 145
第一三章 因 果 154
第一四章 陽 光 164
第一五章 感 謝 176
第一六章 螺旋 一 186
第一六章 螺旋 二 195
第一六章 螺旋 三 204
第一七章 陰 陽 213
第一八条 手 紙 223
第一九章 昇 華 232
第二〇章 朋 友 239
第二一章 恋 心 248
第二二章 同 棲 257
第二三章 融 合 267
第二四章 衝 撃 277
第二五章 修 羅 285
第二六章 流 氷 292
第二七章 雪 崩 301
第二八章 氷 解 309
第二九章 春 雷 317
第三〇章 帰 宅 325
第三一章 目 標 334
第三二章 帰 還 345
第三三章 異 変 353
第三四章 相 克 363
第三五章 談 論 371
第三六章 風 発 379
第三七章 告 知 388
第三八章 清 澄 396
第三九章 空 蝉 408
第四〇章 オーガスタ(起)418
第四一章 オーガスタ(承)427
第四二章 オーガスタ(転)445
第四三章 オーガスタ(結)454
エピローグ 470
あとがき
弁護士は小説家に向かない
この「小説もどき」の作品を書き終えた後の率直な感想である。しかし……
私は子供の頃から好奇心旺盛で、情の厚いところがあったらしい。思い返してみると、誰からも嫌われる悪ガキや劣等生と一緒にいることの方が好きだったような気がする。彼らと一緒に悪事を働いていたのではなく、彼らを子供ながら私が守り、彼らをまっとうな道に立ち返らせることに使命感を持っていたのだ。先生や大人が彼らを非難すると私が弁解し、彼らが弱い者いじめをすると体を張って彼らに抗議する。 そんな私のことを彼らは彼らなりに親近感を持ち、誰も訪ねない彼らの家にも連れて行ったりした。
その一人に朝鮮人がいた。当時は「チャンコロ」といって日本人は敬遠したものだ。彼の家は八畳ほどの掘っ立て小屋で一〇人ほどが同居していた。ニンニク臭く寝る場所もない豚小屋のようだった。彼はそんな家で育てられて、日本人を憎んでいた。私は子供時代の単純な正義感でしかなかったが、日本人がなぜ彼らを差別するのか理解できなかった。もう一つ納得できなかったのが「部落民」の存在だった。私はその頃から弁護士になろうと決めていた。社会から差別をなくしたかったのだ。
一八歳になって刑事弁護士を志して上京し、中央大学法学部に入った。四年間であらゆる分野の本を読んだ。その中で小説と法哲学が性に合う気がした。弁護士になったら刑事弁護士になって、差別と戦うことを夢見ていた。ところが実際に弁護士になったら、私を取り巻く事情がそれを許さなかった。今はまだその事情を話せない。
やむなく第二志望ともいうべき庶民派町医者的民事弁護士(自分の選択を弁解し慰撫するために長ったらしい形容詞をつけている)になって今日に至っている。
現在まで三八年間民事弁護士を職としてきた。しかしその間私の心の中で、常に葛藤する何かがあった。弁護士業を離れて社会に向かって問いかけたいことがあったのだ。広い範囲の人とつきあい、能力のある人をサポートして社会貢献をしたかったし、人と人の愛の輪をつなぎ合わせて、皆で幸せになりたかったのだ。
私はその足がかりにゴルフという趣味を通じて人の輪作りを試みた。「ゴルフ自然人クラブ」の創設だった。それからもう一〇年になる。会報を通じて私の考え方を仲間に送り続けた。その会報に何年にもわたって書き続けたのがこの「遙かなるオーガスタ」だった。
これは私のゴルフ思想遍歴の記録であり、その中での経験を集約し、私の人生観及びゴルフ観として、登場した人物の個性にちりばめたものである。
従ってこの本は、私の趣味の世界での半生記としての私小説であり、私の思想史でもある。僭越にも、私はちょっとしたイタズラ心でこれを小説仕立にしてしまった。書き出したら止まらなくなった。会報が存在する限り書き続けなくてはならない。思いもかけぬ長編になったことと、小説としての体をなさない稚拙な出来映えになっているのはそのせいである。
私は比較的「論文」は好きである。「命題」をはっきりさせ、論理的に結論に導く文章の構成には慣れていると言ってもいい。ところがその論理的筆法が理屈っぽさとなって、この小説にもぎこちなく随所に散見される。読み返すと赤面の至りである。
そのような欠点に目をつむり、今回の出版を決意したのには、私なりの理由がある。ゴルフは素敵なスポーツであり文化だということを、世に広く伝えたかったからである。そして何よりゴルファーに、一つの見解としてアピールしたかったからである。
私は今日の混迷の時代を脱出するには、政治の力だけでは達成できないと思っている。人の意識の変革とその集合、そのためには、その核となるべき人々の意識の覚醒が必要不可欠だと思っている。
今こそ、あらゆる分野の人々が一人一人の思いを発信するときではないだろうか? その意味でこの小説は、私自身が登場人物達の姿形をもって、自分の意見を発言する舞台となることができたと思っている。
そして私は今も、ヨハネや大学や山部大将のような人を師として、また大地やハリカや隼人のような子らを弟子として持てたらという願望を持っている。
小説を書くには不向きな弁護士ではあるが、小説という形式を借りることによって、多数の個性ある人物を登場させ、その人となりをもって自分を語ることができたという達成感には少々満足している。
二〇〇七年一二月二三日 六八歳の誕生日に