性教育対話ノート (2021年3月新刊)

   ――教科書にないセクシュアリティ・ジェンダー教育を語る

   無料塾ココロ編著 [西田みどり責任編集]
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  ■書店販売書籍: なし

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 ◎本書について
  今、教育の現場で問題となっている、教科書で教えない性教育、セクシュアリティ教育、ジェンダー教育、LGBT問題に一石を投じた書。


 本書は、学校での性教育の役割が子どもの安全基地の確保となるために必要なものは何かを、さまざまな意見聴取や対話から明らかにしたもの。いま全国の高校では、文科省通達に従って保健や家庭科の科目の中で「性教育」を行っている。しかし教科書に沿って行われる「性教育」は、単なる避妊教育だったり、禁欲教育だったりして、「性」の最も重要な部分である人間の尊厳や、日々の暮らしでの自由と自立と「性」との関係について踏み込めていない。それは「性教育」に携わる現場の教員が痛切に感じていることである。試行錯誤を続けている教員から出てきた問いは五つ。①なぜ「性教育」が必要なのか、②セクシュアリティ教育が目指すもの、③生徒に何を伝えたいか、④生徒は何を知りたいか、⑤生徒の個人差について――これらの問いに答えるために、本書では、「学歴」とともに分断二大要素の一つである「性」にフォーカスし、それを三つの視点から、「性の教育で必要なこと」(一つ目は学校で行われている文科省通達の「性教育」とそれに携わる現場教師の奮闘を座談会形式で、二つ目は助産師の語る性「出産と赤ちゃん」について、三つ目はLGBTQに関わる「性スペクトラム」について)を論じて見えてきた、子どもの成長に重大な影響を及ぼす「性教育」の在り方を浮き彫りにし、教科書では教えない、性教育の正しい知識とは何かを明らかにした書。今、教育の現場で問題となっている、セクシュアリティ教育、ジェンダー教育、LGBT問題に一石を投じた意欲作。

◎編著者・編集者紹介

編著者:無料塾ココロ(代表・西田隆男):2017年5月より山梨県甲府市で「甲州無料塾ココロ」として無料の学習支援塾を始める。2018年2月より同県山梨市の自立援助ホームでアウトリーチの学習支援を始める。2018年9月より埼玉県飯能市でも無料の学習支援塾を始める。2020年4月に「無料塾ココロ」と改名。上梓した本に『無料塾―ワクワクする学習の場』がある。
編集者:西田みどり:無料塾ココロ理事。文学博士。芝浦工業大学非常勤講師。著書に『〈型〉で書く文章論』『論理的文章作法』『[異界見聞録6]平田篤胤著「勝五郎再生記聞」現代語超編訳版』『[当事者研究]新しい自己発見の方法――熊谷晋一郎東大准教授による高校での当事者研究』(編集著)(以上、知玄舎)、『サイババ超体験』『抱きしめる聖者アマチの奇蹟』(以上、徳間書店)など多数。


●目次

 まえがき
 第一章 セクシュアリティ教育は何を目指しているのか――性教育に携わる現役教師・助産師・カウンセラー・学生の座談会
 [座談会]第一部 「性教育」には教員の姿勢が反映する
◎性教育の二つの流れ
◎「自分はいったい何者なのか」――教師自身もかつて抱いた問いを思い返して接する
◎社会が変わると子どもも変わる――発達特性を持っている子どもの思春期
◎LGBTQも性教育の一環として行う
◎「ジェンダーの授業」では、受けとめる生徒の意識の差が著しい
◎文科省は授業でお産の動画や写真を見せることを禁止している
◎性についての知識の個人差が大きい。性の知識がまったくない大学生もいる
◎高校生みずからがタブー視して目を逸らしている
◎教師が伝えたいのは「きみはきみでいいんだよ」ということ
◎すべての生徒がいとおしい――だからこそ性教育は大事
◎性の授業は生徒の内面深くまで浸透する
◎卒業後に訪ねてきた生徒
◎〈女子・男子〉ではなく〈女体持ち・男体持ち〉という視点の転換
◎安心して性の話ができる場があるとよい
◎生徒がその都度、教師を選んで受講するというアイデア
 [座談会]第二部 性の授業の進め方
◎文科省の方針と教育現場の乖離
◎コンドームを授業で見せるのは禁止されている
◎自分の身を守るためには、性の知識が必要
◎生物では「発生」、社会では「ジェンダー」、国語では「恋文」―性教育は教科でも関連付けられる
◎包括的な性教育には安全・安心な場が必要
◎性教育は教員の生き方がまるごと問われてしまう
◎カミングアウトして社会で活躍している人をモデルにできるか
◎性教育を通して女性への尊敬が生まれた
[座談会]第三部 生きるのがラクになる新しい性のあり方
◎キャラクターと結婚するZ世代の若者
◎結婚と性と家庭は、社会的約束事にすぎない
◎性自認にはグラデーションがある
◎小学校はそもそも国家のために創設された
◎就職先としての「結婚」が弱体化している
◎性自認さえ超えた存在が登場
◎DNAのオン・オフが関係している?
 【コラム 書評】 『オキシトシンがつくる絆社会―安らぎと結びつきのホルモン』
 第二章 「胎児」から「赤ん坊」へ――助産師・大石恵子に聞く出産を巡るあれこれ
 一、胎児はずっと夢を見ている
◎性別がわかるのは10週目、胎児は5センチくらい
◎胎児はレム睡眠状態――つまり夢を見ている
◎子宮の胎児に直接触れる内診
 二、助産師・大石恵子さんへのインタビュー
◎まず「内診」の話から
◎内診するとその人の人生がわかる
◎杉山富士子助産師は内診の名人
◎「役者」に徹して徹底的に産婦さんを褒める
◎ナースコールを握りしめていた産婦
◎分娩台にいるときは、何かやることがあるのが大事
◎伝説の助産師・三森孔子
【コラム 三森孔子(みもり・よしこ)】
◎重力の力を借りたアクティブ・バース
◎産婦さんに意識の方向性を示すと内省的なお産になる
◎胎児に個性はあるか――おなかの中からポコンと蹴って意思を伝える
◎においで分娩の時期がわかる
◎胎児の意識を感じることはあるか
◎性交渉なしで子どもが生まれるか
【コラム 書評】 『存在しない女たち 男性優位の世界にひそむ見せかけのファクトを暴く』
 第三章 性スペクトラム――性は再定義する必要がある
 一、性スペクトラム――生殖器のかたちは個々人によって違う
 二、性は定義しなおさなくてはならない
 三、エインズワースの「性の再定義」
 (一)Y染色体を持っていた女性
 (二)セックスすると男性の遺伝子が女性に移動する
 (三)子宮を持っている男性
 四、人間の性は女性がデフォルト(基準)ではない
 五、「男なんじゃないか」と疑われたキャスター・セメンヤ選手
 六、両性具有という新しい性
 七、死後、両性具有が判明したステラ・ウォルシュ選手の場合
 八、遺伝子多様性と遺伝子修復
 九、単為生殖というサバイバル
 一〇、性決定は環境にお任せするワニやカメ
 一一、性転換するカクレクマノミのサバイバル
 一二、種存続の武器としての性
【ネコとイルカのワイワイ読書会】『心を病んだらいけないの? うつ病社会の処方箋』(與那覇潤×斎藤環共著、新潮選書、2020年)をワイワイと読んでみた
◎うつ病で休職中の教師は病気休職者の67%を占めている
◎「都会のハローワークで多様性にほっとした」に共感
◎リワークデイケアとひとぐすり(人薬)
◎病気に対する自分の姿勢が変わる
◎うつ病は「炭鉱のカナリア」
【無料塾ココロの実践報告と展望】 コロナ後の無料塾のあり方――集中を習慣化する力
◎子どもの時間を分断してはならない
◎集中力を習慣化する方法
◎皆勤で高校を卒業した受講生
――イルカ(公認心理師)の教育相談
【相談1:高校2年のときに高校を中退し引きこもっている息子が「大学に行きたい」と希望しています】
【相談2:HSP(繊細な子)の中学生の娘にどう対応すればよいでしょうか】
 編集後記
 ◇参考文献


 
 まえがき
 
 トランスジェンダーを公表している台湾のIT大臣オードリー・タンさんは、多様性のある社会の長所について尋ねられ、こう答えています。
 
 「個人の運命が性別で決められてしまわないことだと思います。性別による制限は一方の性を持つ人に、別の性の人が体験できるものを共有できなくさせる。そんな社会から生まれる政策は、様々な人が抱える問題を解決できません」
 「多様性のある社会では、個人が生活のなかで性差によって受ける行動の制限が減り、編み出される政策も、多くの人の状況を踏まえた内容になるのです」(2021年3月4日付朝日新聞)
 
 多様性は汎用性につながり、特定の人がいい思いをする社会ではなく、より多くの人が生きやすい社会になるということです。
 この発言が説得力を持つのは、タンさんが行ったコロナ対策の成功があるからです。マスク不足が起こると予想するや、シビックハッカー(政治参加に関心を持つプログラマー)の集まるコミュニティ「g0v」(零時政府の意)で協力者たちと連絡を取り合い、「薬局版マスクマップ」を作成、皆に行き渡るよう手を打ちました。が、この方法では仕事に時間を割かれる人たちが薬局の開いている時間に間に合わない事態が生じたため、24時間購入できるように「コンビニ版マスクマップ」を作成。実名で購入することを義務づけたため、1人の人が何枚も購入するというエゴ的な行為を排除することもできた。
 さらにピンク色のマスクしかなくて学校で女の子みたいだとイジメられるという男の子の訴えに対して、コロナ対策本部の幹部たち全員がピンク色のマスクを付けて記者会見に臨み、色による性差へのこだわりを払拭しました。その結果、「編み出される政策が多くの人の状況を踏まえた内容」になった。
 このような政策だけ見ると、IQ180のエリート官僚の手際のよさが際立ちますが、実はタンさんの学歴は中学校中退です。高校進学をやめたのは、高校に自分の学びたいプログラミングの授業がなかったからであり、中学に通うのをやめたのはIT関係の仕事を始めたから。さらに小学校のときには暴力的なイジメを受けて不登校になったこともあります。そのときは自殺するのではないかとご両親が心配したということですから、相当深刻でした。
 タンさんから学べるのは、現代社会を分断している「性」と「学歴」が生きづらさをもたらし、個人の才能の開花を阻んでいる可能性があること。しかし、そういう外的なマイナス要因をプラスに転化することが可能だということです。それができているからこそ、冒頭のような発言が飛び出した。
 
 本書では、性と学歴という分断二大要素のうち、「性」にフォーカスして、三つの視点から「性の教育で必要なこと」を提示しました。
 一つ目は学校で行われている文科省通達の「性教育」とそれに携わる現場教師の奮闘を座談会形式で、二つ目は助産師の語る性「出産と赤ちゃん」について、三つ目はLGBTQに関わる「性スペクトラム」について、です。
 この三つの視点で「性」を論じると、見えてくるものがあります。それは性とは子どもの成長に不可欠な「安全基地」と密着していて、性教育を通してそれが確保されれば、子どもは安定した心を保つことができるということです。
 確かに社会には子どもが被害者となる危険性はあるし、子どもの性を金儲けに使おうとする大人もいる。デートDVもあります。しかし、性教育によって「それは犯罪であること」「逃げる方法」「信頼できる相談の場所」などの知識を得ていれば、「安全基地」を浸蝕される危険性は防ぐことができる。性とはスペクトラムで多様であるという知識があれば、自分の性指向について「自分は自分」ととらえることができ、これも「安全基地」の確保に有効です。
 勉強への集中には心の安定が必要条件です。そういう視点から性教育をとらえなおす。勉強のために多額の予算を組んでタブレットを個別配付することも大切かもしれませんが、まず子どもの安全基地の確保に最大の力を注ぐべきだと思います。
 学校での性教育の役割が、子どもの安全基地の確保へと舵を切ることを願ってやみません。


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