●アイアングランマ 1/2 (2018年6月新刊)
飯田譲治著 〈協力:梓河人〉
NHK-BSプレミアムで2018年初夏の日曜日夜に連続6話放映
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女優、室井滋・大竹しのぶがダブル主演でスリリングなアクションを繰り広げたNHK-BSプレミアム連続放映のサスペンス。
■電子書籍: 1巻\600 (消費税別)・2巻\600 (消費税別)
2018年6月29日初版発行(1巻、2巻共)
■POD書籍: 1巻\1,940 (消費税別) A5判320頁 ISBN978-4-907875-72-5)
2巻\1,940 (消費税別) A5判308頁 ISBN978-4-907875-73-2)
2018年6月25日初版発行(1巻、2巻共) →アマゾンでの購入はこちら
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◎本書について
1-女優、室井滋・大竹しのぶがダブル主演でスリリングなアクションを繰り広げたNHK-BSプレミアム連続放映のサスペンス1作目。①ソルト&シュガー、②ピンクトラップ、③表と裏の3話(NHK-BSでは6話)を収録。タイトルのIRON
GRANDMA(鋼鉄のおばあちゃん)とは何物? それは世界の裏社会で暗躍した二人の特殊工作員。引退後還暦を越えた今、佐藤直美は孫が大好きなおばあちゃん、塩谷令子は企みを巡らす小学校の理事長。そんなおばあちゃんの二人が、再び裏社会の工作活動に呼び戻された。グランマ故の意外性とカモフラージュはお手の物。豪腕な男集団とまさかの格闘、銃弾をかいくぐり、任務を完遂。奇想天外な大活躍。2015年にはNHKのBSプレミアム(全6話)として放映。アイアングランマ、佐藤直美役は室井滋が、塩谷令子役は大竹しのぶが演じ大きな話題に。そして2018年6月、第2ステージ『アイアングランマ2』がNHK-BSプレミアムで日曜日夜に放映(連続6話)。本書中「ソルト&シュガー」(1~28)の種本は双葉文庫、2014年12月11日初版、ISBN9784575517439。続きの「ピンクトラップ」(29~57)および「表と裏」(58~83)は本書初出。
2-女優、室井滋・大竹しのぶがダブル主演でスリリングなアクションを繰り広げたNHK-BSプレミアム連続放映のサスペンス2作目。①現金密輸ルートを追え、②タイタンの使い、③罠、④敗者は誰、⑤百万年の誓いの5話(NHK-BSでは6話)を収録。タイトルのIRON
GRANDMA(鋼鉄のおばあちゃん)とは世界の裏社会で暗躍した二人の若き女性の特殊工作員。引退後還暦を越えた今、佐藤直美は孫が大好きなおばあちゃん、塩谷令子は企みを巡らす小学校の理事長。そんなおばあちゃんの二人が、再び裏社会の工作活動に呼び戻され、大規模な国際犯罪に巻き込まれる。グランマ故の表社会との板挟みに悩みながらも、豪腕な男集団とまさかの格闘、銃弾をかいくぐり、任務を完遂する様は、はらはらドキドキちょー危険なことも。2015年にNHKのBSプレミアム(全6話)として放映された第1ステージに続き、本書の第2ステージ「アイアングランマ2」は2018年6月、NHK-BSプレミアムで日曜日夜に放映(連続6話)。アイアングランマ、佐藤直美役は室井滋が、塩谷令子役は大竹しのぶがダブル主演で大活躍。
◎著者紹介
飯田譲治(いいだじょうじ)
1959年、長野県出身。86年「キクロプス」で監督デビュー。92年より原作・脚本・演出を担当した『NIGHT HEAD』で注目される。主な作品に『沙粧妙子最後の事件』(95年脚本)『ギフト』(97年脚本)、『あしたの、喜多善男』(08年脚本)、監督作品に『らせん』(98年)、『アナザヘヴン』(00年)、『ストレンジャーズ6』(日中韓合作・12年)、『新版 アナザヘヴン〈上巻・下巻〉』(17年)、『アイアングランマ』(NHK14年)がある。
梓河人(あずさかわと)
短編『その愛は石より重いか』でデビュー。『NIGHT HEAD』より飯田譲治氏に協力している。飯田氏との共著に『アナン』(角川書店)、『アナザヘヴン』『ギフト』(角川ホラー文庫)、『盗作』(講談社)、『アイアングランマ』(双葉社)、新版
アナザヘヴン〈上巻〉、同〈下巻〉(知玄舎)など。個人で執筆した初めての著作『ぼくとアナン』(角川書店)も話題に。
◎内容の一部、引用紹介
プロローグ
女たちの二つの影がぶれた写真のように重なっている。ふたりは黒いガスマスクをつかみ出すと、顔がシワになるのもかまわずにすばやくかぶった。生き延びるために。
また、銃声が響いた。
ドアの前には仲間がひとり、すでに胸を撃ち抜かれて倒れている。大理石の床に黒い血溜まりが広がっていくのを止めることはできない。呼吸音はもう聞こえなくなっていた。
敵に待ち伏せされていた。情報が漏れていたのだ。
銃を持った男はまだ執務室の中にいて、二匹の獲物が飛びこんでくるのを待っている。
ふたりの女は目を合わせ、かすかにうなずいた。
小柄なほうが天井によじのぼる。彼女が通風口から小さなボールを部屋の中に投げこむ間、もうひとりは敵の気を引く。銃声。それた銃弾が女のそばの壁を削った。
ボールから毒ガスが噴き出す。室内の空気が必要な濃度に達するまで、一分間。女たちはドアを破って突入した。非致死性ガスを吸った敵は拳銃を落とし、高級絨毯の上で気を失っている。
小柄な女がすばやく壁をナイフで叩いた。情報部ではわからなかった隠し金庫の位置。だが、彼女はすでにある男から、ある手段でそれを聞き出している。
ここだ。爆薬を貼り、金庫のカギを爆破する。
そのとたん、けたたましい警報が鳴りだした。想定内だ。
警備員があたふたと走ってくる。敵の仲間ではない、普通のガードマン。彼が気づいたときにはもう首にナイフが突きつけられている。声も出ない警備員を女はあっという間に縛りあげ、廊下に転がした。
そのとき、床に倒れていた敵の手が動いた。最後の力を振り絞って銃を拾おうとしている。もうひとりの女が無言でその肩を踏んだ。
バキッ。骨の折れる音。それはふたりにとって特別な音ではない。敵は女たちの顔も見ず、声も聞かないまま完全に意識を失った。
急げ。女はすばやく金庫からファイルを取り出す。何千人もの命が左右される機密データ。
確保。ミッションクリア。
三階の窓を開けると、きらきら光る夜景がふたりの前に広がっている。表面だけは美しい街。女たちはその片隅にひっそりと巣をかける蜘蛛のようにロープを放つ。
脱出。ふたりは髪をなびかせて闇の中に落ちていく。その闇が深く深く、どこまで続いているかわからないままに――。
(以上、1から)
プロローグ
あの夜は満月だったが、わたしたちは月なんか見ていなかった。
大正ロマン風の赤レンガ屋敷は珊瑚樹の生垣で庶民的暮らしと隔てられ、あの世みたいに静まり返っていた。黒装束に身を固めたわたしと塩谷令子は、シュロの木陰の闇から月明かりに浮かぶ屋敷を見あげた。
黒い覆面、ゴーグルの内側に光る目。
夜気の匂い、緑の匂い、道をはずれた人間の匂い。
わたしたちは煙のように静かに庭を移動した。音をたてない黒いスニーカー、窓ガラスに映った幽霊みたいなふたりの姿。まるで現実とは思えない陰謀の世界。
わたしは勝手口のドアの前にしゃがみこみ、革手袋をはめた手で鍵を開けた。一ヶ月前、この屋敷に家政婦として雇われ、もう主人に鍵を預けられるほど信用されていた。
だが、鍵は空回りした。警報のように響くかすかな金属音。
「……先客がいる」わたしは囁いた。
令子が水に潜る前のように息を吸いこんだ。戦いの予感。戦闘モードになると普段の一〇〇倍美しい。ドアを開けると中は真っ暗だった。わたしが今日モップで適当に磨いた廊下の床がかすかに光っている。
わたしは令子の先に立ち、目をつむっても歩けるほどなじんだ家の中を進んでいった。寝室と主人の書斎は二階。きしみをあげる木製の階段をそっと上がった。
ぴりぴりした空気。体内のどこかで始まる秒読み。書斎のドアはわずかに開いている。中からうめき声が聞こえた。
遅かった。わたしたちは急いで危険地帯に飛びこんでいった。
部屋は荒らされ、アンティークデスクにもペルシャ絨毯を敷いた床にも書類が散乱していた。ドアの陰から敵が殴りかかってきた。令子がひとりの首に手刀をぶちこんだ。わたしは別の男につかみかかって床に転がした。あらがう男の手がわたしの覆面を剥がした。
顔が露出し、長い髪がぱさりと広がった。男が驚いたように息をのんだ。女に驚くとは、雑魚だ。わたしは男の頸動脈を圧迫して失神させた。
そのとき、頭の上でふっと空気が揺れた。三人目がわたし目がけてナイフを振り下ろしてくる。
令子がブンと花瓶を投げた。高そうな青磁の花瓶は男の頭で粉々になった。昏倒した男がわたしに覆いかぶさってくる。わたしはその体を転がし、手に持っていたナイフを取りあげた。
月明かりに光る黒い液体。血だ。
令子がデスクスタンドを点け、倒れている三人の体を探った。わたしは部屋を見回した。隅っこにある大きなアンティークのクローゼットの前に、脱ぎ捨てられた服のように人間の体が転がっていた。絨毯に広がる血。駆け寄ってその顔を上に向かせた。
主人だ。他国に戦争関係の機密資料を売ろうとした官僚。もう永遠になにも聞きだせない。国家の裏切り者は首を刺され、すでに息絶えていた。
「だめだ」わたしは令子を見た。
生きたまま拘束できなかったと知ったら、ボスの時田は逆上するだろう。令子は敵のポケットからつかみ出した青いフロッピーをひらひら振って見せた。
「あった。こいつらもこれを狙ってた。間に合ってよかった」
この主人が官邸から持ち帰った機密資料だ。どこかからその情報が漏れていた。横取りを図ったグループは、アジアか、中東か。わたしは主人のそばに転がっている拳銃を見た。三人に襲われて反撃しようとしたが、その前に殺られてしまったようだ。
「わたしたちのほうが早かったら、助かってた」
「それはどうかな」令子はいった。「自業自得よ」
寝返った男に同情は無用。令子は素早く三人の敵を後ろ手にして手錠をかけた。こいつらの正体をつきとめるのはわたしたちの仕事ではない。
「さっさと退散しよう」令子は出口に向かった。
そのとき、わたしの地獄耳がかすかな音をとらえた。わたしは振り向き、ナルニア国物語で子どもたちが魔女の国に行ったみたいな両開きのクローゼットを見た。
この中に誰かいる。
わたしは手に持ったナイフを握りしめ、取っ手をつかんで素早くクローゼットの扉を開けた。
むっとするウールの匂い。分厚いコートの陰にうずくまる小さな人間。小さなパジャマ姿の男の子は涙でいっぱいの目で、耳を両手で塞いで震えていた。
「まーくん――」
主人のひとり息子だ。寝室で寝ているはずなのに、なぜ、こんなところに。父親が隠したのだ。まーくんの目がわたしの背後に向いた。父親の遺体が見える。わたしはとっさに自分の体で遮った。六歳の子にこんな生々しい死を見せたら心が壊れてしまう。
「お父さん――」まーくんは這い出てこようとした。
「ダメ、まーくん、まだ入ってて。わかった?」
あわてて制したわたしの手は、その子の父の血で汚れていた。まーくんははっとわたしを見あげた。その足には、昨日、わたしといっしょに自転車の練習をしたときに転んだ傷がかさぶたになっていた。
さようなら、短いおつきあい。わたしはふたりの関係を閉じるようにクローゼットの扉を閉めた。開かないように取っ手にナイフを挟む。すぐに警察がきて発見してくれるはずだ。
「お父さん、お父さん――」
ドン、ドン、ドン。子どもの小さな手が内側から扉を叩いた。揺れるクローゼット、揺れる心。こんな子がありながら、なぜ危険な裏切りをしたのか。それも子どものためだというのか。怒りと痛み、やるせない悲しみをこらえ、わたしは令子と階下へ走り去った。
ドン、ドン、ドン。お父さん、お父さーん――。
(以上、2から)