[異界見聞録 12]怖~い大江戸奇天烈話

   ――根岸鎮衛秘録[耳袋]から  (2023年1月新刊)

   西田みどり 著
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  ■電子書籍: \1,320 (税込、書店サイトによって相違があります)
   2023年1月20日初版発行 →アマゾンでの購入はこちら

  ■POD書籍: \1760 (税込)/(B6判202頁、部分カラー ISBN978-4-910056-50-0)
   2023年1月10日初版発行 →アマゾンでの購入はこちら
   (ご購入はPOD書籍取扱い店:アマゾン、三省堂書店、楽天でお求めください。★その他書店では取扱いがございません)

  ※ご購入はTOPページの販売店でお求めください。
   価格は当社の販売希望価格です。
   各書店のキャンペーン等で販売価格が変更(割引)になることがあります。
   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ◎本書について
 江戸時代の異聞を集録した『耳袋』から興味深い奇談を厳選した短編小説のように読める本。

本書は、江戸時代の奉行・根岸鎮衛(ねぎしやすもり:1737-1815)が「身近で聞いた話」を書き綴ったもので、『耳袋』として知られてきたもの。当時奉行であった著者が、佐渡奉行を務めていた天明4年3月から同7年7月の間に、当時の江戸時代に伝聞されていた「奇談」や「人のためになる話」の聞き書きは10巻、全部で1000に近い話が集録された門外不出の秘録。その記録の特徴は、当時、奉行という重い役職にあった著者が、聞き書きとはいえ「事実」を集め、地名や人物名の固有名詞とともに、できるだけ正確に、こじつけ的な解釈をすることなく、ただ淡々と記されているところ。その中から本書では、厳選した原文資料を編案して現代語文でわかりやすく表現し、解説を加えて構成。一部では「ためになる話」と「不思議な話」を中心にし、二部では「死霊」と「妖狐」にまつわる話を掲載。それぞれの話を、短編小説のような感覚で楽しめる大江戸の異聞文化の醍醐味を伝える書。

◎著者紹介
西田 みどり(にしだ みどり)
 編集者・著述業。文学博士。2006年、「まことと救世主――久米邦武の比較文化論」で中外日報社・涙骨賞受賞。芝浦工業大学、学習院大学、大正大学等の講師を経て現職。著書に『〈型〉で書く文章論』『論理的文章作法』『[異界見聞録6]平田篤胤著「勝五郎再生記聞」現代語超編訳版』『[当事者研究]新しい自己発見の方法――熊谷晋一郎東大准教授による高校での当事者研究』(編集著)(以上、知玄舎)、『サイババ超体験』『抱きしめる聖者アマチの奇蹟』(以上、徳間書店)、『異次元体験アストラルトリップ』(学研)など多数。

●目次

序 章 根岸鎮衛著『耳嚢』とは
第一部 「不思議な話」と「開運話」
第1章 護符の力と神仏のプレゼント
――プロローグ
◎陽物(男根)は福をもたらすために人の手から手に渡っていく
◎庭から出てきた仏像を改造したら、乱心してしまった
◎失くしたお守りが自ら帰ってきた
◎「火伏せのお守り」の価値がわからず、火事に見舞われた
◎古道具屋で長持を買ったら二重底で小判がザクザク
◎「どうしてこの人はこんなについているのだろう?」
◎江の島の弁天様に祈願して願いがかなった
◎大黒様に祈って福を授かった夫婦
第2章 妓女の結婚
――プロローグ
◎正直な妓女「けころ」の結婚
◎妓女・船饅頭の結婚
第3章 人の命を救うのが最高の開運法
――プロローグ
◎占い師が予言した死期
◎人の命を救って自分の命も助かった
◎因果応報だと死刑を受け入れた山伏殺しの武士
◎「なぜ助けてくれたのだろう」善行が趣味の人との出会い
◎ろくろ首と結婚した貧しい貸本屋
第4章 猫のしわざか
――プロローグ
◎ぶち猫の命をかけての恩返し
◎猫好き娘が猫に似てくる
◎スズメを捕まえ損ねて「残念なり」と人語を話した猫
第5章 植物だって意思がある
――プロローグ
◎梅の樹の恩返し
◎「ここを動くのは嫌だ」と頑張った松の樹
第6章 異界との通路
――プロローグ
◎修験道の奇怪「しゃべる箱」
◎幼くして死んだ子が約束どおり再生してきた
◎天狗界に住み替えた孫
◎行方不明になった子どもを呼び出す山
第7章 予言のサイン
――プロローグ
◎火事を予言した働き者の下僕
◎女の子の予言「守り神が物に託して知らせてくれます」
◎死脈による予言
◎五本の鍼で施術する鍼名人の予言
第8章 不思議な話
――プロローグ
◎人が不思議だと語ることを、鵜呑みにしてはならない
◎河童の塩漬けの話
◎二十六歳の女性が男性になってしまった
◎庭石が鳴った
◎水が湧く石と、石の中の竜
◎夢で暴力を振るったら、生身の妻がケガをした
◎根岸鎮衛のスタンスがわかる神道の「湯立神事」見物記
◎溺死した人を蘇らせる奇薬
第9章 長寿の人には変人が多い
――プロローグ
◎満腹するまで食べない
◎長寿の人には変わった人が多い
第二部 死霊の言い分
第10章 死霊がやって来た「どうしてもお礼を言いたくて」 
――プロローグ
◎「どうしてもお礼を申し上げたくて」霊になって飛んできた
◎「こんなに大きくなって……」里子に出した幼い娘に会いに来た母死霊
◎「私がお礼を申し上げていたことをお伝えください」と伝言を頼んだ死霊
第11章 死霊がやって来た「心残りで次の世界に行けない」 
――プロローグ
◎天井裏に隠したラブレターが気になって
◎「二歳の娘はちゃんと世話してもらっているかしら」心配した母死霊
◎駆け落ち途中で身重の恋人を置いて逃げた男を訪ねた死霊
第12章 死霊がやって来た「お恨みいたします」
――プロローグ
◎義母の姦通を目撃して殺された嫁の死霊
◎本妻に供養を頼んできた妾
◎先妻に嫉妬するあまり、位牌を叩き割った後妻
◎恨みを抱いて死んだ死霊は見た目も怖い
第13章 死霊がやって来た「なんか、行き合っちゃったね」
――プロローグ
◎「おじちゃんにちょっと会いたくて」
◎亡くなった小侍に橋のたもとで行き合った
◎閻魔様がご本尊の寺院で、死霊に行き合った
◎死霊か妄想か
第14章 よみがえった死者 
――プロローグ
◎赤い衣の僧侶が「帰してあげよう」と――それで蘇った
◎「どこに行っていいかわからないから、通りかかったお坊さんに声をかけたけど……」
◎「棺桶の中で目を覚ました、真っ暗だった……」
◎棺桶に遺体を安置しているときに息を吹き返した
◎死んで棺に入れられた母親から産まれた子ども
◎死にたいのに死ねない人の話
◎医者にさじをなげられて形見分けまで済ませたのに、ぜんぜん死ぬ気配がない
第15章 妖狐には強気でガンガン行く
――プロローグ
◎化け物には強気で対応するのが一番
◎恐怖を与えてすくみ上がらせるのが、妖怪の作戦
◎妖狐が亡き妻に化けて生気を吸いとる
◎「霊気狐」を頼んで酒の飲みすぎを止めた死霊妻
 あとがき


序 章 根岸鎮衛著『耳嚢』とは
 
 『耳嚢』は、江戸時代のお奉行様・根岸鎮衛(一七三七‐一八一五)が、「身近で聞いた話」を書き綴ったものです(本書では以降、現代語編訳と解説に際して『耳袋』と表記します)。
 家に訪ねてきた人や、たまたま行き合った人など、話してくれた人はいろいろですが、共通しているのは「全部ホントのこと」、つまり「事実」だということです。だから、この本では、根岸奉行の集めた話を「記事」と呼んでいます。
 書き始めたのは、佐渡奉行を務めていた天明四年三月から同七年七月の間です。佐渡奉行は暇なので、余裕がありました。それで一念発起したのと、佐渡にはおもしろい話がたくさんあったのでしょう。跋文(あとがき)には、どんなポリシーで収集したかが、こう記されています。
 「この本は、私が佐渡の庁に勤めていたとき収集していた奇談や人のためになる話をまとめて書き記していったものだ」
 「奇談」と「人のためになる話」を集めたんですね。「奇談」とは文字どおり「不思議な話」です。「人のためになる話」とは、開運法と運気転換法です。
 その後、鎮衛が江戸に戻って、勘定奉行を務めるようになると、とても忙しくて書き記す余裕がなくなります。それでも、目標の十巻(一巻が約百話)まで、ブランクもありましたが、完成させました。最終的に筆を置いたのは、亡くなる前年の文化十一年六月、足かけ三十年の仕事です。
 一つの巻に掲載されている記事の数は、バラツキもありますが、だいたい百話。全部で千に近い聞き書きです(正確には九八三話)。
 三巻目くらいまで書き進んだときに、ちょっと周辺の人に見せたところ、みな夢中になって、引っ張りだこになります。高名な儒学者の林述斎まで「貸してくれないか」と頼んできた。
 ただ、鎮衛自身は、人に貸すのを嫌がっていました。無断で版刻して、出版する人がいたためです。門外不出としていましたが、それでも、鎮衛が恩義のある人(つまり頼まれたら断れない人です)を通して、何度も懇請してくる。しかたなく黙認し、ただし期間は五日間のみとしたので、その間、借りた人は、寝食忘れて徹夜で写したというエピソードも残されています。コピー機のない時代で、手で書き写すしかありません。そうやって書き写したものを、またほかの人が写します。したがって、写本がいくつかあります。
 原文は鎮衛の死後、昌平黌で保管されていました。昌平黌は、のちの東京大学につながる幕府の学問所で、誰でもが入れるわけではありません。ここで保管されていたものは、明治維新後にできた太政官を経て東大の史料編纂所に移行しています。ところが、厳重なはずの昌平黌から、「耳袋」の原文は行方不明になっていました。理由は明らかではありませんが、内部の人が、どうしても読みたくて、無断で持ち出したのではないかという憶測もされています。
 
 『耳袋』の特徴は、当時、奉行という重い役職にあった鎮衛が、聞き書きとはいえ「事実」を集め、地名や人物名の固有名詞とともに、できるだけ正確に記述していることです。
 こじつけ的な解釈はなく、ただ淡々と記しています。奉行ですからインテリであり、話してくれる人も、鎮衛の交流関係の範囲ですから、でたらめを言う人ではない。内容に信頼性があります。
 引っ張りだこで読まれたのは、共感するところがたくさんあったからでしょう。それは、現代の私たちにも通じる内容です。
 
 本書では『日本庶民生活史料集成 第十六巻』(三一書房、一九七〇年)に収録された「耳嚢」全巻を底本とし、東洋文庫の『 耳袋1、2』(平凡社、一九七二年)も参考にしつつ、テーマに合わせて、六十三の聞き書きをピックアップ、事実を浮き上がらせることに留意して編集しました。江戸時代の風習や時代背景など、解説が必要な事柄については、本文のなかに入れ込みました。
 構成は、全体を一部と二部に分け、一部では「ためになる話」と「不思議な話」を中心に九章立てで、二部では「死霊」と「妖狐」を六章立てで掲載しています。一つひとつを、短編小説のような感覚でお楽しみいただければと思います。


TOPに戻る